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■よみもの 


メルマガで連載中「口伝 〜代々伝わる建具職人の心〜」
「そうだ、簾戸があった!」

                      
(株)デザインネットワークス取締役 早津信雄氏


私達日本人は生来 「衣・食・住」・・・という生活の三要素を、

移り行く季節の様々な場面で創意工夫し、味わいつつ楽しむ
文化を持っている。

四季のメリハリが生活の中に自然に溶け込み、

身に付いている類稀な民族である。

暦の上の節気にも それを表わすことばが並ぶ・・・・・・。

春の息吹を感じる頃の「啓蟄」、夏の盛りは「大暑」、

そして冬本番は「大寒」となる。

実生活に目を転じると、馴染み易いところでは夏、冬の「衣替え」であろう。

また食の面では、春の訪れを膳に並ぶ山菜で感じ、夏は涼を求め冷麦・・・となり、

そしてコートの襟を立てる頃には鍋料理が出番となる。



さて、肝心の「住」の面では如何であろうか?

日常の生活に直結した「衣」や「食」に比して背景的な空間となる「住」の分野では、

限られた範囲に留まると思うが、建具一つの交換で思わぬ効果があることに気付く。

「そうだ、簾戸があった!」



因みに我が家でも居間と和室の戸境に冬場は戸襖を入れ、夏は簾戸に交換する

生活が馴染んで来た。

これを製作して下さったのは新潟県新発田市の高橋建具製作所である。

一間間口の引き違い戸一本を毎年交換することにより、見栄えと共に夏風が通り抜ける

体感となり 簾戸を抜けて我が家に夏が来る。



エアコン等のコントロール含め 物理的な対応には何の変化も無いのに、建具一本を

交換しただけで「涼」も運ばれ、環境が一変する。

また 閉鎖的な襖 と異なり、風を通す清涼感と共に織り込んだ葦の間をスルーして

運ばれる音(声)や香り・・・・所謂 「気配」と共に、光を透す効果も新鮮味がある。

そして一瞬にして異空間の設え・・・・となるから実に不思議である。



織り込まれた葦、等間隔に並ぶ杉の横桟、下部の黒竹も趣がある。

建具造りを生業とする職匠の技に加え誠意やまごころも感じられ 実に味わいがある。


今年の夏は特に節電や省エネ・・・・が叫ばれているが、天然素材を職人さんが丁寧に

加工、細工して拵えてくれた簾戸を入れ この夏を乗り切ろう・・・と思う。




早津氏とは、朝日新聞に弊社の簾戸が掲載された際、ご注文を頂き、それからも色々とお世話になっております。簾戸について取材させて頂き、その後に「そうだ、簾戸があった!」を送って頂きました。
ありがとうございます。

「豊かな生活環境 デザインと健康」

                          

               新潟大学教育学部芸術環境講座准教授 橋本学
                                  新潟大学橋本先生ホームページ


 我々の生活環境は日々変化し続けています。一昔前では考えられなかった多様なデジタル家電に囲まれ、
収納家具は建物に組み込まれ様式感の無いニュートラルな空間となり、多様な空調器具等で、便利で快適な
空間が築かれている様に見えます。しかしながら、一方で利便性の追求から失って行った要素も多いのでは
ないかと感じ、私は、「用と美との融合における木材造形」というテーマで制作研究に向き合いました。
研究の中では、利便性の追求により無機質な形状になったシンプルなモノではなく、実用的用途以外の仕掛け(余地の機能)を加えた表現を目指しています。この一見、無駄と思われる遊びの要素を組み入れた表現は、伝統文化にも見受けられた行為であり、モノは、使うという用途と、鑑賞し楽しむという用途をあわせ持つという考えが、私が追求し続けている研究です。


 豊かな生活環境とは、私自身「健康的で快適な環境」、「明るいコミュニケーションが生まれる癒しの環境」この二つの要素の築きが重要ではないかと感じています。前者は、近年のテクノロジーの発展と共に健康被害の有る物質の除去といった物質的な解決の他、市場競争社会の中で、機能的には何不自由の無い環境を安価に得る社会へと成長してきました。しかしながら、後者の環境を見てみると、豊かさとは程遠い現実が見えてきます。
その現状は、消費者がモノとの関係性を、単なる利便性としか捉えられなくなったのでは無く、感受性を持って妥協せずモノと付き合い造り出された商品が、市場から徐々に消えてゆき、消費者のモノに拘る感覚迄が退化してきたのではないかと考察しています。一つには、グローバル経済や大量消費社会の陰で、コスト重視、マーケットリサーチによる商品コンセプトの均一化にあるのではないかと感じています。デザイナーや作り手は、個に合わせた癒しの空間や心の豊かさは、勿論、大事な要素であることは感じています。しかしながら、実際、果たしてどれだけの対価を消費者は払うことが出来るのかが計れないまま、我が国のモノ造りは、迷走しているかにも見えてきてしょうがありません。


 先人による日本人独特の価値観の築きとして「侘」をも美意識とし、「寂」を味わい深いと見る良き感性が育てられてきました。モノとの付き合い方は、現在よりも深みがあったのではと感じています。自分にあったモノ、自分が見つけ出したモノ、長く付き合えるモノ、言い換えればモノに対しての関係がもっと複雑で貪欲ではなかったのではないでしょうか。


 人は皆、色々な欲を持って生きています。その欲を得た暁には他者に評価してもらいたいという衝動が生まれてくるでしょう。「豊かな生活環境 デザインと健康」と題して、此処で言いたいことは、消費者がモノに対しての欲を持ち、拘りを持った生活を各々が得る事ができれば独自の空間を築くことができるでしょう。その結果、自分の価値観で築いたモノを人に見てもらいたいという欲望も生まれ、他者とのコミュニケーションを育む行動が出来るでしょう。そして孤独な生活環境から他者を招き入れる環境へと変化してゆき暮らしの中での生き甲斐となるのです。
生活に夢や目標を与え、生活の張りをもたらすことが健康に繋がるのではないでしょうか。この支援を、デザイナーや作り手が真摯に捉え、売れるモノという価値観だけでなく、伝統を重んじて個に合わせた良いモノを造り出すことを前提に、次世代を支えなければならないのです。



 今回の、高橋建具製作所での「新潟の杉を使った建具を、高齢者の健康に役立てる」とうプロジェクトでは、直接的な健康支援という立ち位置よりも、私が後者として述べた精神的な健康支援のあり方に添ったプロジェクトではと感じています。伝統的な手法による建具の持つストーリー性や、経年変化をも考慮し同じ材から造り出すといった素材感を重要視したモノ造り、消費者の要望を細かく聞き造り上げてゆく過程など拘りを持った姿勢が伺われました。現在、我々の生活環境では、伝統的な和様式が姿を消しつつあるのは止められません。しかしながら、伝統的な拘りをもった造形姿勢は、時代を超え、造り出されるモノの姿や用途を変えながらも、生き甲斐が持てる場の築きや、豊かさを彩る柱となることでしょう。


弊社では、新潟県の応援をうけ、H22年10月〜H23年3月まで 健康関連ビジネスモデル推進事業を行ってきました。その一環として、新潟大学 橋本学准教授より『デザインと健康』について指導をしてもらい論文も
書いて頂きました。